確定申告と聞くと、「難しそう」「面倒くさい」と感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、年に一度のこの手続きは、適切に行うことで納める税金が安くなったり、払いすぎた税金が戻ってきたりと、家計に大きな影響を与える可能性があります。特に、2025年(令和7年)3月17日までが申告期限となる2024年(令和6年)分の確定申告は、さまざまな制度変更や電子化の推進により、以前よりも格段に便利になっています。バーチャルオフィスで起業した人、会社員の方で副業所得が20万円を超える場合や、住宅ローン控除を初めて利用する方、高額な医療費を支払った方、個人事業主やフリーランスの方にとっては、避けて通れない道です。このガイドでは、確定申告の基本的な流れから、必要な書類、申告書の作成方法、提出方法、そして納税・還付までの全プロセスを、初心者の方にも分かりやすく丁寧に解説します。複雑に思える確定申告も、一つひとつのステップを理解すれば、決して難しいものではありません。この記事を読み進めることで、あなたも安心して確定申告を済ませることができるようになるでしょう。

確定申告とは?


確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得について、自分で所得税額を計算し、税務署に申告・納税する手続きのことを指します。所得税は、所得の種類や金額に応じて計算され、最終的な納税額は、所得から所得控除(社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除など)を差し引いた課税所得に税率を掛けて算出されます。会社員の場合、通常は会社が年末調整で所得税の計算・精算を行ってくれるため、確定申告は不要なケースが多いですが、例えば給与所得以外に副業の所得が年間20万円を超える場合や、2か所以上から給与をもらっている場合、住宅ローン控除を初めて受ける場合、ふるさと納税などの寄付金控除や医療費控除を利用したい場合などは、ご自身で確定申告を行う必要があります。また、個人事業主やフリーランス、不動産オーナーの方は、原則として毎年確定申告が義務付けられており、事業の売上から経費を差し引いた所得を申告する必要があります。確定申告は、単に税金を納めるだけでなく、払いすぎた税金が還付金として戻ってくる「還付申告」の側面も持ち合わせており、多くの場合、国民が自身の納税額を正しく申告する重要な機会となります。この制度を理解し活用することで、適切な納税を行い、場合によっては税負担を軽減できる可能性があるのです。

確定申告の基本的な流れ(5ステップ)


確定申告は、以下の5つのステップで進めることができます。それぞれのステップを順に見ていくことで、全体像を把握し、スムーズな申告につなげることが可能です。まず最初のステップは、申告に必要な書類を正確に準備することです。これは確定申告の根幹をなす部分であり、この準備が不十分だと後々の作業で手間取ったり、申告内容に誤りが生じたりする原因となります。次に、個人事業主やフリーランスの方にとっては、日々の取引を記録した帳簿を整理することが不可欠です。これにより、売上や経費を正確に把握し、正しい所得金額を算出することができます。帳簿の整理は、青色申告の特典を受けるためにも重要です。そして、最も時間と手間がかかるのが、実際に確定申告書類を作成するステップです。国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用するのが一般的ですが、会計ソフトの活用や手書きでの作成も選択肢となります。書類が完成したら、いよいよ税務署への提出です。最近ではe-Tax(電子申告)が推奨されており、自宅から手軽に提出できるようになっています。郵送や窓口での提出も可能です。最後に、納税が必要な場合は期日までに税金を納付し、還付金がある場合は指定した口座に振り込まれるのを待つことになります。これらのステップを一つずつ確実にこなしていくことで、複雑に思える確定申告も着実に完了させることができます。

  1. 必要書類を用意する

  2. 確定申告を始める上で、最も重要な準備段階が「必要書類の用意」です。このステップを疎かにすると、申告書の作成段階で不足が生じたり、計算に誤りが生じたりする可能性があります。まず、共通して必要となるのが本人確認書類です。マイナンバーカードがあれば一枚で事足りますが、お持ちでない場合は、通知カードと運転免許証などの身元確認書類を合わせて用意しましょう。また、還付金を受け取る可能性がある場合は、振込先の銀行口座情報がわかるもの(通帳など)も手元に準備しておく必要があります。次に、所得の種類に応じて、その所得を証明する書類が不可欠です。給与所得者の方は、会社から交付される「源泉徴収票」が最も重要です。これは申告書作成時に必須の情報源となりますが、2024年分の確定申告からは添付が不要になりました。個人事業主やフリーランスの方は、日々の取引を記録した帳簿や、売上・経費を証明する領収書、請求書などを整理し、所得金額を算出するための基盤を築きます。年金受給者は「公的年金等の源泉徴収票」が必要です。さらに、様々な所得控除を適用したい場合には、それらを証明する書類も集める必要があります。例えば、社会保険料を支払った場合は「社会保険料控除証明書」、生命保険料を支払った場合は「生命保険料控除証明書」、医療費を多く支払った場合は「医療費控除の明細書」や医療費通知、領収書、寄付を行った場合は「寄付金の受領書」などが該当します。住宅ローン控除を初めて受ける方は、住宅の登記事項証明書、工事請負契約書または売買契約書の写し、住宅借入金等特別控除額の計算明細書、借入金の年末残高等証明書など、多くの書類が必要となりますので、早めに準備を始めましょう。これらの書類を漏れなく揃えることで、後の申告書作成がスムーズに進み、正確な申告を行うことができます。
  3. 帳簿を整理する(個人事業主・フリーランスの場合)
    個人事業主やフリーランスの方にとって、確定申告における重要な作業の一つが「帳簿の整理」です。これは、事業の正確な所得金額を計算し、税務署に申告するための基盤となります。帳簿付けには、大きく分けて「白色申告」と「青色申告」の二種類があります。白色申告は、簡易な帳簿付けで済ませられるのが特徴で、売上や経費をまとめた「収支内訳書」を作成します。特別な事前申請は不要で、比較的簡単に始められますが、税制上の優遇措置は少ないです。一方、青色申告は、原則として「複式簿記」という専門的な方法で帳簿付けを行う必要があり、「青色申告決算書」を作成します。複式簿記は、すべての取引を借方と貸方に分けて記録する方式で、日々の記帳は手間がかかりますが、その分、最大65万円(または10万円)の青色申告特別控除が受けられるなど、大きな税制上のメリットがあります。青色申告を選択するには、事前に税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。どちらの申告方法を選ぶにしても、日々の売上や経費を記録し、領収書や請求書などの証拠書類を整理・保管することが不可欠です。最近では、クラウド会計ソフトの利用が非常に一般的になっており、銀行口座やクレジットカードとの連携により、取引データを自動で取り込み、効率的に帳簿付けを行うことができます。これらのソフトを活用すれば、簿記の知識が少なくても比較的容易に複式簿記による記帳が可能となり、最終的な確定申告書や青色申告決算書の作成もスムーズに行えるため、多くの個人事業主やフリーランスに選ばれています。正確な帳簿付けは、税務調査対策にもなり、ご自身の事業の財務状況を把握するためにも非常に重要です。
  4. 確定申告書類を作成する
    必要書類の準備と帳簿の整理が終わったら、いよいよ確定申告書類の作成に入ります。このステップは、申告内容を正確に反映させるために非常に重要です。確定申告書類の作成には、主に3つの方法があります。最も推奨され、多くの利用者が活用しているのが、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を利用する方法です。これは国税庁のウェブサイト上で提供されている無料サービスで、画面の案内に従って収入や控除の金額などを入力していくだけで、自動的に所得税額が計算され、必要な申告書が作成されます。計算ミスを防ぎ、初心者でも安心して利用できる点が最大のメリットです。スマートフォンからの入力にも対応しており、より手軽に作成できる環境が整っています。作成した申告書は、そのままe-Tax(電子申告)で税務署に送信することも可能ですし、PDFファイルとしてダウンロードして印刷し、郵送または税務署窓口へ持参することもできます。次に、確定申告ソフトや会計ソフトを利用する方法です。個人事業主やフリーランスの方で、日々の会計処理に会計ソフトを導入している場合、そのソフトから直接、確定申告書や青色申告決算書を作成できる機能が備わっていることが多いです。これにより、日々の記帳から確定申告まで一貫して行えるため、効率が大幅に向上します。多くの有料ソフトがありますが、無料のお試し期間が設けられているものもあります。最後に、手書きで作成する方法も選択肢の一つです。税務署や市区町村の窓口で配布されている確定申告書を入手し、直接記入する方法です。この方法は、記入漏れや計算ミスがないよう、ご自身で細心の注意を払う必要があります。特に、計算が複雑な場合や控除の種類が多い場合は、計算ミスが発生しやすいため、国税庁の作成コーナーやソフトの利用が賢明です。どの方法を選ぶにしても、入力または記入する際には、用意した必要書類の情報を正確に反映させることが肝心です。
  5. 確定申告書と必要な添付書類を提出する
    確定申告書類の作成が完了したら、いよいよ税務署への提出段階です。提出方法は主に3つあり、それぞれに特徴とメリットがあります。最も推奨され、近年利用者が急増しているのがe-Tax(電子申告)で提出する方法です。これは、作成した申告書データをインターネットを通じて税務署に送信する方式で、自宅からいつでも申告できる利便性が最大の魅力です。e-Taxを利用するには、マイナンバーカードとICカードリーダー(またはマイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン)が必要ですが、一度設定してしまえば、以降は非常にスムーズに申告が行えます。また、一部の控除証明書(生命保険料控除証明書など)の提出が省略できるメリットもあります。マイナンバーカードがない場合でも、税務署で本人確認の上、ID・パスワード方式の届出をすればe-Taxを利用できますが、こちらはマイナンバーカード方式に比べて利用できる範囲が限定的です。次に、郵送で提出する方法です。作成した申告書と必要な添付書類を、住所地を管轄する税務署または国税庁が指定する業務センター宛に郵送します。この際、送付控えが必要な場合は、切手を貼った返信用封筒を同封し、申告書の控えも一緒に送付するようにしましょう。消印が申告期限内であれば有効とされます。最後に、税務署の窓口で提出する方法です。直接税務署に出向いて提出する方法で、税務署内に設けられた確定申告会場などで申告書の作成相談を受けながら提出することも可能です。ただし、申告期間中は窓口が大変混み合い、待ち時間が発生することが多いため、時間に余裕を持って行動する必要があります。いずれの方法を選ぶにしても、提出期間が定められている点に注意が必要です。所得税の確定申告期間は、原則として毎年2月16日から3月15日までですが、2025年(令和7年)の確定申告期間は、2025年2月17日(月)から3月17日(月)までとなります。期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるので、早めの提出を心がけましょう。
  6. 税金を納付する、または還付される
    確定申告書を提出した後、最後に残るのが「税金の納付」または「還付金の受領」のステップです。申告書の内容に基づいて計算された所得税額に応じて、このどちらかの処理が行われます。まず、納税が必要な場合についてです。所得税を納める必要がある場合、その納付期限は申告期限と同じく、原則として3月15日(2025年分は3月17日)です。納付方法にはいくつかの選択肢があります。最も手軽なのは、e-Taxを利用したダイレクト納付です。これは、事前に利用届出書を提出しておくことで、ご自身の銀行口座から直接税金を振り込むことができる方法で、金融機関に出向く手間が省けます。また、クレジットカード納付も可能で、インターネット上で手続きが完結します。ただし、クレジットカード会社所定の手数料がかかる点には注意が必要です。少額の納税であれば、バーコード付きの納付書を使ってコンビニエンスストアで納付することもできます。その他、金融機関や税務署の窓口で現金で納付する方法や、事前に税務署へ依頼書を提出しておくことで、指定の金融機関口座から自動で引き落とされる振替納税も利用できます。振替納税は、納付期限が4月下旬と少し遅くなるため、資金繰りの面でメリットを感じる方もいるでしょう。次に、還付される場合についてです。源泉徴収された所得税額が、確定申告によって計算された最終的な所得税額よりも多かった場合や、医療費控除や住宅ローン控除などによって税金が還付される場合、事前に申告書で指定した銀行口座へ還付金が振り込まれます。還付金の振り込みには、申告書提出から通常1か月程度かかりますが、e-Taxを利用した場合や、申告期間開始直後に提出した場合は、比較的早く振り込まれる傾向があります。いずれにしても、申告が完了したら、納税が必要な方は忘れずに期日までに納付し、還付がある方は指定口座への入金を確認するようにしましょう。

スマホでの確定申告について


近年、テクノロジーの進化により、確定申告の手続きもより手軽になっています。特に注目されているのが、スマートフォン(スマホ)を使った確定申告です。以前はパソコンが必須とされていましたが、今では多くの人がスマホ一つで確定申告を完結できるようになっています。この進化の背景には、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」がスマホに最適化されたことが挙げられます。このウェブサイトにアクセスすれば、まるでアプリを操作するような感覚で、画面の指示に従って収入や控除の金額などを入力していくだけで、簡単に確定申告書を作成できます。入力項目も分かりやすく、途中で保存もできるため、自分のペースで作業を進めることが可能です。作成した申告書は、そのままe-Tax(電子申告)で提出することもできます。この際、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマホがあれば、専用のICカードリーダーがなくても、スマホでマイナンバーカードを読み取り、本人認証を行って電子申告を完了させることが可能です。これにより、税務署に出向いたり、郵送したりする手間が省け、時間や場所を選ばずに申告ができるという大きなメリットがあります。また、一部の会計ソフトや確定申告アプリも、スマホからの帳簿付けや確定申告書の作成・提出に対応しており、個人事業主やフリーランスの方にとっても、スマホ一つで会計業務を完結できる環境が整いつつあります。さらに、2025年1月からは「スマホ用電子証明書」に対応することで、物理的なマイナンバーカードをスマホで読み取ることなく、スマホ本体に格納された電子証明書を利用して電子申告ができるようになるなど、利便性は一層向上する見込みです。スマホでの確定申告は、時間や手間を大幅に削減し、より多くの人々にとって確定申告を身近なものにしています。

確定申告を忘れた場合、期限を過ぎた場合


確定申告は、原則として毎年2月16日から3月15日までの期間(2025年分は2月17日から3月17日まで)に行う必要がありますが、もし何らかの理由でこの期限を過ぎてしまった場合でも、決して諦める必要はありません。期限を過ぎてしまった申告は「期限後申告」として扱われます。期限後申告でも、税金を納めることは可能ですが、いくつかペナルティが課される可能性があるため、気づいた時点ですぐに申告手続きを行うことが重要です。最も大きなペナルティは、「無申告加算税」です。これは、正当な理由なく期限内に申告しなかった場合に課される税金で、原則として納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%が加算されます。ただし、自主的に期限後申告を行った場合や、税務調査の連絡を受ける前に自主的に申告した場合には、この無申告加算税が軽減されたり、課されないケースもあります(納付すべき税額が50万円以下の場合は5%)。次に課される可能性があるのが「延滞税」です。これは、法定納期限までに税金を納付しなかった場合に、その未納期間に応じて発生する利息のようなもので、納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じた税率で計算されます。延滞税の税率は期間によって変動しますが、法定納期限の翌日から2ヶ月以内であれば比較的低い税率が適用されます。これらのペナルティを避けるためにも、もし期限を過ぎてしまったことに気づいたら、一刻も早く申告書を作成し、提出するようにしましょう。税務署も、自主的な申告には寛容な姿勢を示すことが多いです。不明な点があれば、税務署に相談するか、税理士などの専門家にアドバイスを求めることも有効です。確定申告は国民の義務ではありますが、万が一の事態に備えて、適切な対応策を知っておくことは非常に重要です。