「電子帳簿保存法」という言葉を耳にする機会が増え、その対応に頭を悩ませている経営者の方や経理担当者の方も多いのではないでしょうか。特に2022年1月の改正、そして2024年1月からの電子取引データ保存の完全義務化により、これまで以上に本法律への理解と適切な対応が求められるようになりました。しかし、「結局、何がどう変わったの?」「うちの会社は何をすればいいの?」「どんな書類が対象になるの?」といった疑問が尽きないかもしれません。
本記事では、これからバーチャルオフィスの利用を検討している、あるいは既に利用している経営者や担当者の皆様に向けて,電子帳簿保存法の基本から、今回の改正で義務化された電子取引データの保存方法、さらには対応しない場合に生じるリスク、そして対応することで得られるメリットまで、網羅的にかつ分かりやすく解説していきます。特に、多くの企業が頭を悩ませる「対象書類」については、国税関係帳簿から決算関係書類、そして取引関係書類に至るまで、具体的な例を挙げながら掘り下げていきます。また、紙で受け取った書類のスキャナ保存の要件緩和や、電子取引データ保存における「真実性の確保」「可視性の確保」といった重要な要件についても詳しく触れていきますので、ご自身の会社で何をすべきか、具体的なイメージを持っていただくことができるでしょう。
電子帳簿保存法への対応は、単なる法改正への順守だけでなく、企業の業務効率化、コスト削減、さらにはDX推進といった観点からも非常に重要な意味を持ちます。本記事を通じて、電子帳簿保存法に関する疑問を解消し、スムーズな対応への第一歩を踏み出していただければ幸いです。2024年からの完全義務化に向けて、今からでも遅くない対策を一緒に考えていきましょう。
電子帳簿保存法とは?基本を押さえよう
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子データによる保存を認める法律として、1998年に施行されました。その目的は、ペーパーレス化の推進と納税者の事務負担の軽減にあります。これまで紙での保存が原則だった帳簿や書類を電子データで保存することで、保管スペースの削減や検索性の向上など、多くのメリットが期待されてきました。近年、デジタル化の波が加速する中で、企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環としても、電子帳簿保存法の重要性は高まっています。この法律の対象となるのは、法人だけでなく個人事業主も含まれ、すべての事業者がその内容を理解し、適切に対応することが求められます。電子帳簿保存法は、大きく分けて「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つの区分で構成されており、それぞれで保存の要件が異なります。
電子帳簿保存法の目的と概要
電子帳簿保存法の最大の目的は、納税者の事務負担を軽減し、税務手続きの効率化を図ることにあります。これまで大量に保管されてきた紙の書類は、保管スペースの確保や管理の手間、そして必要な書類を探し出す際の労力など、多大なコストと時間を要していました。電子データとして保存することで、これらの課題を解決し、企業の生産性向上に貢献します。さらに、デジタル化を推進することで、経済全体のDXを促進し、国際競争力の強化にも繋がるという側面も持ち合わせています。この法律は、法人企業だけでなく、青色申告や白色申告を行っている個人事業主も対象となり、規模の大小にかかわらず、すべての事業者が関心を持つべき内容です。特に、IT化が進む現代において、電子データでのやり取りは日常的に行われており、それらのデータを適切に保存することは、企業の健全な経営において不可欠な要素となっています。
2024年改正の重要ポイント
2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法は、2024年1月1日から「電子取引データ保存の義務化」が完全に適用されるという点で、多くの企業に大きな影響を与えています。これまで宥恕措置が設けられていましたが、その期間が終了し、電子的にやり取りされた取引データは原則として電子データのまま保存することが義務付けられました。これは、例えばメールで送られてきた請求書PDFや、ECサイトからダウンロードした領収書データなどが対象となります。紙に出力して保存することが原則禁止となるため、企業は新たな保存体制を構築する必要があります。一方で、スキャナ保存の要件は大幅に緩和されました。以前は必要だったタイムスタンプの付与が不要となるケースや、検索要件が緩和されるなど、紙書類を電子化して保存する際のハードルが下がりました。これは、既存の紙書類の電子化を進めたい企業にとっては朗報と言えるでしょう。ただし、緩和されたとはいえ、不正防止のための措置は引き続き求められます。
電子帳簿保存法の対象となる「国税関係帳簿書類」を徹底解説
電子帳簿保存法が対象とするのは、「国税関係帳簿」と「国税関係書類」です。これらは、税務申告の根拠となる非常に重要な書類であり、税務調査においてもその提出が求められます。国税関係帳簿には、日々の取引を記録する仕訳帳や総勘定元帳などが含まれ、国税関係書類には、企業間の取引で発生する請求書や領収書、そして決算時に作成する貸借対照表や損益計算書などが該当します。これらの書類を適切に電子保存することで、紙での保管に比べて、検索性が格段に向上し、必要な情報を迅速に参照できるようになります。また、紛失や破損のリスクも低減され、災害時などにおける事業継続性の観点からも有効な手段となります。
国税関係帳簿とは?
国税関係帳簿とは、企業の会計処理における最も基本的な記録であり、日々の取引を網羅的に記録したものです。具体的には、すべての取引を日付順に記載する「仕訳帳」、各勘定科目の増減と残高を示す「総勘定元帳」、現金の入出金を記録する「現金出納帳」、売上や仕入れに関する債権債務を記録する「売掛帳」「買掛帳」、そして固定資産の取得や減価償却を記録する「固定資産台帳」などがこれに該当します。これらの帳簿は、会計ソフトを利用して作成することが一般的ですが、その場合、電子データとして保存することが電子帳簿保存法の「電子帳簿等保存」の対象となります。電子帳簿等保存を行うためには、一定の要件を満たす必要があります。例えば、訂正や削除の履歴が残ること、正規の簿記の原則に従って記録されていること、関連する帳簿や書類との相互関連性が確保されていることなどが挙げられます。これらの要件を満たすことで、税務署からの信頼性も高まり、効率的な税務監査にも繋がります。
国税関係書類とは?
国税関係書類は、企業の取引や経営状況を示す証拠となる書類全般を指します。これらは、大きく「決算関係書類」と「取引関係書類」に分類されます。特に取引関係書類は、日常的な事業活動において頻繁に発生し、その種類も多岐にわたります。これらの書類を適切に電子保存することは、企業の透明性を確保し、税務調査において円滑な対応を行う上で極めて重要です。電子帳簿保存法では、これらの書類を電子的に作成した場合の保存方法や、紙で受領した場合のスキャナ保存の要件など、詳細な規定が設けられています。
決算関係書類
決算関係書類とは、企業の一定期間の経営成績や財政状態を示すために作成される書類です。具体的には、企業の資産、負債、純資産の状況を示す「貸借対照表」、一定期間の収益と費用、利益の状況を示す「損益計算書」、売れ残りや在庫の状況を示す「棚卸表」などがこれに該当します。これらの書類は、税務申告の際に必ず提出が求められ、企業の健康状態を示す非常に重要な資料です。これらの書類を電子的に作成した場合、電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります。例えば、PDF形式で保存し、改ざんされないような対策を講じること、容易に内容を確認できる状態で保存することなどが求められます。また、必要に応じていつでも出力できる状態を維持することも重要です。
取引関係書類
取引関係書類は、企業間での売買やサービス提供など、日々の取引によって発生する書類です。これには、商品やサービスの価格を提示する「見積書」、代金の請求を行う「請求書」、商品やサービスが納品されたことを証明する「納品書」、代金の受領を証明する「領収書」、商品の注文を依頼する「注文書」、そして取引の内容や条件を明確にする「契約書」などが含まれます。これらの書類は、自社が発行するものと、取引先から受領するものがあり、それぞれで保存方法や要件が異なります。特に、電子的に授受したこれらの書類は、2024年1月からの電子取引データ保存の義務化により、電子データのまま保存することが原則となります。
紙で受領した書類(スキャナ保存)の要件とメリット・デメリット
紙で受領した請求書や領収書などの取引関係書類は、スキャナ保存の要件を満たすことで、電子データとして保存し、紙の原本を破棄することが可能になります。2022年の法改正により、スキャナ保存の要件は大幅に緩和され、導入のハードルが下がりました。具体的には、タイムスタンプの付与要件が緩和され、適時に入力する要件が廃止されたり、解像度やカラーに関する要件が緩和されたりしています。これにより、以前よりも柔軟にスキャナ保存を導入できるようになりました。スキャナ保存のメリットとしては、物理的な保管スペースの削減、検索性の向上、紛失リスクの低減などが挙げられます。一方で、デメリットとしては、スキャニング作業の手間、初期費用やランニングコスト、そしてデータ化する際の入力ミスやスキャン品質の問題などが考えられます。導入を検討する際は、これらのメリットとデメリットを比較し、自社の業務フローに合わせた最適な方法を選択することが重要です。
電子取引データの保存義務化!その詳細と具体的な対応
2024年1月1日以降、すべての事業者は電子的に授受した取引データを電子データのまま保存することが義務付けられました。これは、PDFで送られてくる請求書や、ECサイトで購入した際の領収書、クラウドサービス上で発行される利用明細など、電子的な方法でやり取りされたすべての取引情報が対象となります。この義務化は、コロナ禍におけるリモートワークの普及やデジタル化の加速を背景に、業務効率化やペーパーレス化を一層推進することを目的としています。宥恕措置が終了した今、企業はこの義務化に真摯に向き合い、適切な保存体制を構築することが急務となっています。紙に印刷して保存することは原則として認められず、電子データのまま所定の要件を満たして保存する必要があります。
電子取引とは?対象となる取引情報を確認
電子取引とは、電子的な方法によって行われる取引全般を指します。具体的には、電子メールに添付されたPDF形式の請求書や領収書、ECサイトで購入した際にウェブサイトからダウンロードした購入明細、クラウドサービス上で発行された利用料金の明細、オンラインバンキングで確認できる振込履歴、さらにはEDI(電子データ交換)システムを通じてやり取りされる受発注データなどが該当します。これらの取引において、書類やデータが紙ではなく電子的に授受された場合、それは電子取引データとして電子帳簿保存法の保存対象となります。重要なのは、形式を問わず、電子的に授受された「取引情報」が全て対象となる点です。例えば、PC画面に表示されただけの情報であっても、それが取引に関する情報であれば保存義務の対象となる可能性があります。
電子取引データ保存の具体的な要件
電子取引データを保存する際には、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの重要な要件を満たす必要があります。これらの要件は、電子データが改ざんされていないこと、そして必要な時にいつでも内容を確認できる状態であることを保証するために設けられています。具体的には、タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用、あるいは改ざん防止に関する事務処理規程の整備などが求められます。これらの要件を満たすことで、保存された電子データの信頼性が担保され、税務調査などにおいても円滑な対応が可能となります。
真実性の確保
真実性の確保とは、保存された電子データが、その取引の事実を正確に記録しており、改ざんや削除が行われていないことを保証するための要件です。これにはいくつかの方法が認められています。一つは、日本データ通信協会が認定するタイムスタンプを電子データに付与する方法です。タイムスタンプは、そのデータが特定の時刻に存在し、それ以降改ざんされていないことを証明するものです。もう一つは、データの訂正や削除の履歴が残る、または訂正や削除ができないシステムを利用する方法です。例えば、多くのクラウド型会計システムや文書管理システムには、このような機能が備わっています。さらに、訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定め、それに従って運用することも真実性確保の方法として認められています。この規程には、どのような場合に訂正や削除を行うか、その際の手順や承認フローなどを明記する必要があります。これらのいずれかの方法により、電子データの信頼性を確保することが求められます。
可視性の確保
可視性の確保とは、保存された電子データが、税務職員が閲覧可能な状態であり、必要な時に迅速に検索・表示できることを保証するための要件です。これには、主に以下の3つの要件があります。第一に、保存された電子データを「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの要素で検索できる機能が必要です。例えば、ファイル名にこれらの情報を盛り込む、あるいは索引簿を作成して管理するなどの方法が考えられます。特に、税務調査においてこれらの情報に基づいて特定の取引を抽出することが求められるため、検索機能は非常に重要です。第二に、保存された電子データを、速やかにディスプレイやプリンタで確認できる状態にすることです。これは、電子データが閲覧可能な形式で保存されており、必要に応じて出力できる環境が整っていることを意味します。最後に、使用しているシステムのマニュアルや、システムの概要を示す書類、さらには操作手順書などを備え付けておく必要があります。これらは、システム障害時や担当者の変更時などにおいても、スムーズな対応を可能にするために必要不可欠な書類となります。
電子帳簿保存法に対応しないとどうなる?罰則とリスク
電子帳簿保存法への対応は、単なる努力義務ではなく、2024年1月からの電子取引データ保存の義務化により、その重要性はこれまで以上に高まっています。もし、この法律の要件を満たさずに電子取引データを保存しなかった場合、企業は様々なリスクに直面することになります。これらのリスクは、金銭的なものだけでなく、企業の信用失墜にも繋がりかねないため、決して軽視できるものではありません。適切な対応を怠った場合、事業継続にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
青色申告の承認取り消しリスク
青色申告は、税制上の優遇措置を受けることができる非常に有利な制度です。しかし、電子帳簿保存法の要件を満たさずに電子取引データを保存しなかった場合、税務署は青色申告の承認を取り消す可能性があります。青色申告の承認が取り消されると、最大で65万円の青色申告特別控除が受けられなくなるだけでなく、赤字を翌期以降に繰り越すこともできなくなるなど、税負担が大幅に増加する可能性があります。これは、特に中小企業や個人事業主にとって、経営を圧迫する大きな要因となり得ます。税務署は、法律の遵守状況を厳しくチェックしており、適切な帳簿書類の保存は青色申告の前提条件となります。
追徴課税のリスク(重加算税10%加重)
電子帳簿保存法の要件を満たさずに電子取引データを保存しなかった場合、税務調査において、保存すべきデータが保存されていない、あるいは保存されていてもその信頼性が低いと判断される可能性があります。その結果、本来支払うべき税額が過少申告であったと認定され、追徴課税が課される可能性があります。さらに悪質なケースや、意図的な隠蔽や仮装と判断された場合には、通常の追徴課税に加えて、重加算税が課される可能性があります。特に、電子取引データ保存に関しては、その不備が「仮装・隠蔽」とみなされた場合、通常の重加算税に加えてさらに10%が加重されるという厳しい措置が設けられています。これは、単純なミスでは済まされない、企業にとって非常に大きな金銭的負担となることを意味します。
企業の信頼性低下
電子帳簿保存法への不適切な対応は、単に税務上のリスクに留まりません。企業の内部統制の不備として、取引先や金融機関、株主などからの信頼を失うことにも繋がりかねません。特に、近年は企業のガバナンスやコンプライアンスに対する意識が高まっており、法令遵守は企業の社会的責任として強く求められています。電子帳簿保存法に対応しないことは、企業の透明性や信頼性を損ない、結果としてビジネスチャンスの喪失や、最悪の場合、事業の継続が困難になる事態を招く可能性も否定できません。適切な対応は、企業のブランドイメージ向上にも繋がり、長期的な視点で見れば、企業の競争力強化にも貢献します。
電子帳簿保存法対応のメリット・デメリット
電子帳簿保存法への対応は、初期の負担が大きいと感じるかもしれませんが、長期的には多くのメリットをもたらします。一方で、導入にあたってはデメリットも存在するため、それらを理解した上で計画的に対応を進めることが重要です。
メリット
電子帳簿保存法に対応することで、企業は単に法令を遵守するだけでなく、業務の効率化、コスト削減、セキュリティ強化など、多岐にわたるメリットを享受できます。これらは、企業の経営体質を強化し、持続的な成長を支援する重要な要素となります。
業務効率化と生産性向上
電子帳簿保存法への対応は、企業の業務プロセスを大幅に効率化し、生産性向上に貢献します。まず、紙媒体で保管していた大量の書類を電子化することで、必要な書類を瞬時に検索できるようになります。これにより、経理担当者が書類を探す時間や、承認者が書類を確認する時間が大幅に短縮されます。また、ファイリング作業や書類の郵送・管理といった手間が削減され、より付加価値の高い業務に時間を割くことが可能になります。さらに、クラウド型のシステムを導入すれば、オフィス以外の場所からでも書類の確認や承認ができるようになり、リモートワークやテレワークといった柔軟な働き方にも対応できるようになります。これにより、従業員のエンゲージメント向上や、優秀な人材の確保にも繋がるでしょう。
コスト削減と環境負荷低減
電子化を進めることで、紙媒体の書類に関する様々なコストを削減できます。具体的には、紙代、印刷代、インク代といった消耗品費の削減はもちろんのこと、書類を保管するためのキャビネットや倉庫の賃貸料、あるいは外部倉庫の利用料といった物理的な保管コストも削減できます。また、書類の郵送費や運搬費も不要になります。これらのコスト削減は、特に大量の書類を扱う企業にとって、年間で数百万円、数千万円といった大きな金額になる可能性があります。さらに、紙の使用量を減らすことは、環境負荷の低減にも繋がり、企業のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献としても評価されます。環境に配慮した企業としてのイメージ向上は、顧客や投資家からの評価にも繋がるでしょう。
セキュリティと情報管理の向上
紙媒体での書類保存は、紛失や盗難、火災や水害といった災害による破損のリスクが常に伴います。電子帳簿保存法に対応し、電子データを適切に管理することで、これらのリスクを大幅に低減できます。電子データは、適切なアクセス制限や暗号化、定期的なバックアップを行うことで、より強固なセキュリティ環境を構築できます。また、データの変更履歴が自動的に記録されるシステムを導入すれば、不正な改ざんや削除を検知しやすくなり、内部統制の強化にも繋がります。情報管理の面では、必要なデータを一元的に管理できるため、部門間の情報共有もスムーズになり、経営判断の迅速化にも寄与します。
リモートワークへの対応力強化
電子帳簿保存法への対応は、リモートワーク(テレワーク)の推進において不可欠な要素となります。紙の書類が中心の業務フローでは、従業員がオフィスに出社しなければ書類の確認や承認ができないため、リモートワークの導入が困難でした。しかし、電子化された書類は、インターネット環境さえあればどこからでもアクセスできるため、場所を選ばずに業務を遂行することが可能になります。これにより、緊急事態発生時の事業継続性の確保や、地方在住の人材採用など、企業の多様な働き方を支援する基盤が構築されます。従業員のワークライフバランスの向上にも繋がり、企業の魅力を高める要素となるでしょう。
デメリット
電子帳簿保存法への対応は多くのメリットがある一方で、導入にあたってはいくつかのデメリットも考慮する必要があります。これらのデメリットを事前に把握し、適切な対策を講じることで、スムーズな移行を実現できます。
システム導入・運用コスト
電子帳簿保存法に対応するためには、多くの場合、新たなシステムやソフトウェアの導入が必要となります。例えば、電子帳簿等保存に対応した会計システム、スキャナ保存に対応した文書管理システム、電子取引データ保存に対応したワークフローシステムやクラウドストレージなどです。これらのシステム導入には、初期費用がかかるだけでなく、月々の利用料やメンテナンス費用といったランニングコストも発生します。特に、既存のシステムとの連携や、社内ネットワークの整備が必要となる場合には、追加の費用が発生することもあります。中小企業にとっては、これらのコストが大きな負担となる可能性もあるため、費用対効果を慎重に検討し、自社の規模や予算に合ったシステム選定が重要ですし、無料トライアルなどを活用してみるのも良いでしょう。
運用ルールの整備と従業員への周知・教育
電子帳簿保存法に対応したシステムを導入するだけでは、適切な運用はできません。電子データの保存に関する詳細な運用ルールを策定し、それを従業員全員に周知徹底することが不可欠です。例えば、「電子取引データのファイル名の命名規則」「保存場所とフォルダ構造」「検索項目の入力ルール」「スキャナ保存における画像の解像度やカラー設定」、そして「訂正や削除が発生した場合の具体的な手順と承認フロー」などを盛り込んだ「事務処理規程」を作成します。この事務処理規程は、税務署に提出する場合があるため、明確で分かりやすい内容にすることが求められます。また、規程を策定するだけでなく、従業員がその内容を理解し、日常業務で実践できるよう、定期的な研修会や説明会を開催し、マニュアルを配布するなど、継続的な教育を行うことが重要です。新たなルールやシステムへの移行には、従業員の抵抗が生じることもあります。そのため、導入の意義を丁寧に説明し、理解と協力を促すことが成功の鍵となります。
不正対策の徹底
電子データは、紙媒体に比べて改ざんや削除が容易であるという特性を持っています。そのため、電子帳簿保存法では、データの真実性を確保するための厳格な要件が設けられています。システムに訂正・削除履歴が残る機能があるか、タイムスタンプが付与されるか、あるいは改ざん防止のための事務処理規程が適切に運用されているかなど、不正を防ぐための対策を徹底する必要があります。万が一、不正な改ざんや削除が行われた場合、企業は重加算税などの罰則を受けるだけでなく、社会的な信用を大きく失うことになります。システム選定時には、セキュリティ機能が充実しているかを確認し、運用においても定期的な監査やチェック体制を構築するなど、常に不正対策を意識した運用が求められます。
電子帳簿保存法対応のステップ
電子帳簿保存法への対応は、一朝一夕で完了するものではありません。計画的に段階を踏んで進めることで、スムーズかつ確実に法令遵守体制を構築できます。以下のステップを参考に、自社に合った対応計画を立てていきましょう。
現状把握と課題の洗い出し
電子帳簿保存法への対応を始めるにあたり、まずは現在の業務フローと書類の管理状況を詳細に把握することが第一歩です。具体的には、現在どのような国税関係帳簿書類が、どのような形式(紙、電子データ)で、どこに、どれくらいの期間保存されているのかを特定します。例えば、請求書は紙で受け取っているものとPDFで受け取っているものがあるか、領収書はすべて紙で保存しているか、会計帳簿は会計ソフトで作成しているか、などが挙げられます。これらの現状を把握することで、電子帳簿保存法のどの区分(電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存)が自社に適用されるのか、そしてそれぞれの区分でどのような課題があるのかを洗い出すことができます。この段階で、電子化したい書類や、既存の課題(保管スペース不足、検索性の低さなど)を明確にすることで、今後の対応方針が定まります。
対応方針の決定と社内体制の構築
現状把握と課題の洗い出しが終わったら、次に電子帳簿保存法への具体的な対応方針を決定します。どの書類を電子化するのか、どのシステムを導入するのか、紙の書類はいつまで保存し、いつ破棄するのかなど、具体的な計画を立てます。この際、費用対効果や業務への影響を考慮し、段階的な導入も視野に入れると良いでしょう。そして、この対応計画を実行するために、社内体制を構築します。電子帳簿保存法対応のプロジェクトリーダーを選定し、経理部門、情報システム部門、総務部門など、関連する部署から担当者を選出し、チームを組成します。各担当者の責任と役割を明確にし、定期的に進捗を確認する体制を整えることが重要です。経営層の理解と協力も不可欠であり、トップダウンで推進していく意識を持つことが成功の鍵となります。
システムの選定と導入
電子帳簿保存法に対応するためには、適切なシステムの選定と導入が不可欠です。選択肢としては、電子帳簿等保存に対応した「会計ソフト」、紙書類のスキャナ保存や電子取引データの一元管理ができる「文書管理システム」、従業員の経費精算を効率化する「経費精算システム」、電子契約を可能にする「電子契約システム」などがあります。システムを選定する際には、電子帳簿保存法の要件を網羅しているか、自社の既存システムとの連携は可能か、操作性はどうか、セキュリティ対策は万全か、サポート体制は充実しているか、といった点を総合的に比較検討することが重要です。複数のシステムを組み合わせることも考えられますが、その場合はデータ連携や運用の一貫性を考慮する必要があります。導入後も、定期的なシステムのアップデートやメンテナンスを忘れずに行いましょう。
運用ルールの策定と従業員教育
システムを導入したら、そのシステムを適切に運用するための詳細なルールを策定し、従業員に徹底的に周知・教育する必要があります。具体的には、「電子取引データのファイル名の命名規則」「保存場所とフォルダ構造」「検索項目の入力ルール」「スキャナ保存における画像の解像度やカラー設定」、そして「訂正・削除が発生した場合の具体的な手順と承認フロー」などを盛り込んだ「事務処理規程」を作成します。この事務処理規程は、税務署に提出する場合があるため、明確で分かりやすい内容にすることが求められます。また、規程を策定するだけでなく、従業員がその内容を理解し、日常業務で実践できるよう、定期的な研修会や説明会を開催し、マニュアルを配布するなど、継続的な教育を行うことが重要です。疑問点や不明点が出た際には、すぐに解決できるような相談窓口を設けることも効果的です。
定期的な見直しと改善
電子帳簿保存法への対応は、一度行えば終わりではありません。法律の改正やIT技術の進化、あるいは自社の業務フローの変化に応じて、定期的に運用状況を見直し、改善していくことが重要です。例えば、法改正によって新たな要件が追加された場合や、システムのアップデートによって新たな機能が追加された場合などには、運用ルールやマニュアルを適宜修正し、従業員に周知徹底する必要があります。また、実際に運用してみて、非効率な点や課題が見つかった場合には、その都度改善策を検討し、より効率的で確実に法令を遵守できる体制を構築していくことが求められます。定期的な内部監査を実施し、法令遵守状況を確認することも有効な手段です。
よくある質問
電子帳簿保存法に関しては、多くの方が共通の疑問を抱えています。ここでは、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
手書きの書類は対象になりますか?
手書きの書類であっても、それが国税関係帳簿書類(例えば、手書きの領収書や請求書など)に該当する場合、電子帳簿保存法の対象となります。ただし、手書きで作成された書類は、電子データとして直接生成されるものではないため、「電子帳簿等保存」の対象にはなりません。代わりに、その手書きの書類をスキャナで読み取り、電子化して保存する「スキャナ保存」の要件を満たすことで、電子データとして保存することが可能です。この場合、スキャナ保存の要件(一定の解像度、カラー保存、タイムスタンプ付与など)を遵守する必要があります。また、紙の原本を破棄する際には、事前に適切な手続きを踏むことが求められます。
電子帳簿保存法は個人事業主も対象ですか?
はい、電子帳簿保存法は法人だけでなく、青色申告や白色申告を行っている個人事業主も対象となります。特に、2024年1月からの電子取引データ保存の義務化は、個人事業主にも適用されます。例えば、クラウドサービスからダウンロードした利用明細や、メールで受け取った請求書などは、電子データのまま保存する必要があります。中小企業や個人事業主の場合、大企業に比べてITリソースが限られていることが多いため、会計ソフトやクラウドサービスを積極的に活用し、効率的に対応を進めることが推奨されます。税理士や会計事務所に相談するなどして、自身の事業規模や取引内容に合わせた最適な方法を検討することが大切です。
クラウドサービスの利用は問題ありませんか?
はい、電子帳簿保存法に対応したクラウドサービスの利用は、むしろ推奨される有効な手段です。多くのクラウド会計システムや文書管理システムは、電子帳簿保存法の要件(真実性、可視性)を満たす機能を提供しています。例えば、タイムスタンプの自動付与機能や、訂正・削除履歴の管理機能、検索機能などが標準で搭載されているものも多いです。クラウドサービスを利用することで、自社でサーバーを構築・運用する手間やコストを削減できるだけでなく、システムのアップデートやセキュリティ対策もサービス提供者が行ってくれるため、安心して利用できます。ただし、サービスを選定する際には、利用を検討しているサービスが電子帳簿保存法の各要件に適合しているかどうかを事前に確認することが重要です。
紙で受け取った書類は、必ずスキャンする必要がありますか?
いいえ、紙で受け取った書類を必ずしもスキャンする必要はありません。紙で受け取った書類は、これまで通り紙のまま保存することも認められています。ただし、紙のまま保存する場合でも、整理整頓を徹底し、いつでも必要な書類をすぐに見つけ出せるようにしておく必要があります。しかし、業務効率化や保管スペースの削減といったメリットを享受したい場合は、スキャナ保存の要件を満たした上で電子化し、紙の原本を破棄することが可能です。2022年の法改正によりスキャナ保存の要件が緩和されたため、以前よりもスキャナ保存の導入はしやすくなっています。自社の業務フローやコスト、書類の量などを考慮し、紙での保存を継続するか、スキャナ保存に移行するかを判断すると良いでしょう。
最後に
電子帳簿保存法への対応は、企業にとって避けられない課題であると同時に、業務効率化やコスト削減、ひいては企業のデジタル化を推進する大きなチャンスでもあります。本記事で解説した内容を参考に、自社の現状を把握し、最適な対応策を講じていきましょう。適切な準備を行うことで、法改正を乗り越え、より強固で効率的な企業基盤を築くことができます。ご不明な点があれば、専門家への相談も検討してみてください。